The Wizard of Science

人類学のこと、歴史・考古学のこと、航空機のこと、特許のこと、海外の言語や書籍、などなど、たまには横道にそれたりする長文が多めなブログです。

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古人類学用語で桃太郎

昔々、東アフリカの辺りに、ミトコンドリア・イブとY染色体アダムがいました。

アダムは20-30万年ぐらい前を、イブは16万年前±4ぐらい前をうろうろしていると、25万年くらい前のあたりで、今までと違うホモが系統樹の上から流れてきました。

「このような今後の世界を変えるホモは見たことがない。これからの進化と種の発展を共に見守ろう。なお、16万年まえぐらいに流れてきたイダルツや40万年ぐらいにも既に同じホモを見たような気がするが、決定的証拠もないため、とりあえず置いておこう」

 アフリカ村でもしかしたら同種であるかもしれないネアンデルタールから分岐させて誕生したこのホモは、ホモ・サピエンス太郎と名づけられました。

 この時アフリカ村にはまだエレクトゥス、エレガステルといった複数の人類がいましたが、トバ・カタストロフィがきっかけと考えられるヴュルム氷期によって絶滅してしまったと考えられるようです。ホモ・サピエンス太郎にもボトルネック効果が発生しました。

 このような厳しい環境の中にありながらもホモ・サピエンス太郎はすくすくと成長し、ネアンデルタールが使うモード3石器のムステリアン文化とはまた違うモード4石器、代表的なものとしてアウリグナシアン文化を発展させました。

 技術と文化を身に着けたホモ・サピエンス太郎は「世界に広がりたい」と言い出しました。
 アダムとイブは単一起源か多地域かでもんちゃくしましたが、どちらにしても遺伝子を広める良い機会だと、ホモ・サピエンス太郎が家畜化の術を心得た後に送り出しました。

 ホモ・サピエンス太郎が歩いていると野生の狼に会いました。
「餌をくれたら従順な家来になります」
 こうして家畜化された狼は犬となりました。

 ホモ・サピエンス太郎が歩いていると野生のキジの一種であるセキショクヤケイ(など)に会いました。
「餌をくれたら卵を産んで朝を知らせる目覚ましになります」
 こうして家畜化されたキジは鶏となりました。

 このように他の野生動物たちも、例えば、オーロックスはウシに、イノシシはブタに、ムフロンはヒツジに、パサンはヤギとなって、ホモ・サピエンス太郎に従うようになりました。
 ホモ・サピエンス太郎はたくさんの動物の家畜化に成功しましたが、サルは残念ながら一部が興行用として役に立ったものの、根本的には従属できなかったので家畜となるまでには至りませんでした。

 ホモ・サピエンス太郎がモード5石器を使うようになるころにはユーラシア大陸の多くの場所でその姿を見かけることができるようになりました。

 これに困ったのはマンモスをはじめとする大型の哺乳動物たちです。一般には大きな体で他を圧倒し、毎日が宴を開いているようなイメージを持たれることが多い彼らですが、実際は氷河期末の気候変動によって生息域が狭まっており、伝染病などの諸原因の可能性もあって、その生態的地位は既に危ういものでした。
 そこに止めを指すようにやってきたのがホモ・サピエンス太郎達です。発達した石器技術、火の使用、仲間や家畜と協力できる高度な連携能力を持って狩猟にあたります。
 元々一頭当たりの出産数が少ない大型哺乳動物は狩猟に弱く、急激に数を減らして絶滅の一途を辿りました。
 彼らの多くは姿は消えましたが、ホモ・サピエンス太郎は洞窟の奥に、見事な躍動感のある絵を残しました。
 なお、もしかしたら家畜化のはじまりは大型哺乳動物の絶滅と前後するかもしれないのですが、正確な時期に関しては未だ解明には至ってはいません。
 また、原因は未だ不明ですが、欧州地方や中近東に広がっていたネアンデルタールも絶滅していました。でも、彼らの遺伝子の一部は現代のホモ・サピエンス太郎の中に残っているらしいのです。

 新石器を使うようになるころにはホモ・サピエンス太郎はユーラシアの東端である日本列島でも同様に大型哺乳動物の狩猟に励み、更にベーリング海を超えてアメリカ大陸に到達、南はオセアニア、ミクロネシアの島々にも時間はかかりましたが船を駆って進出します。
 こうして、ホモ・サピエンス太郎は世界という大きな宝を手に入れたのです。

デニソワ、デニソワ


もはやしゃぶられつくされたネタに勢いで便乗してみました。参考(パクリ元)>サッカー用語 >IT用語
元の昔話に合わせるため結構無理してます。専門用語やり過ぎても面白くなりそうになかったので、これを見てネット検索から興味を持ってくれたらいいなレベルで書いてみました(言い訳)。あとで後悔して更新したりするかも。




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テーマ:進化学 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2017/04/07(金) 20:05:21|
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実は猿は話せる?口と喉の構造解析からわかる発声能力。

今年も随分と終わりに近づいてきました。今回の記事が今年の最後となると思います。

そんな終わりになって入ってきたニュースに「猿は実は話せるのに十分な構造を持っているんじゃないか」というなかなか面白いものがあったのでここでせっかくなので書いていきたいと思います。

http://www.sciencemag.org/news/2016/12/why-monkeys-can-t-talk-and-what-they-would-sound-if-they-could

さて、一般常識としてこの世界には話すことができる猿というのは存在しません。あくまでフィクションの中での存在です。
ですが、知能的にはある程度言語を理解することが知られています。例えば、チンパンジーが与えられたおもちゃを指示されたとおりに並べたり、また手話をある程度行えるということが知られています。これを行うには高度な言語理解力が必要だということから、彼らは教育によって言語を会得することができる素質が備わっているといえます。
ですが、そのチンパンジーが人間と”声を出して会話”することはできません。これに対するこれまでの学者の回答としては「猿は人間と違って二足歩行を常に行うわけではなく、その結果、口と喉の構造が人と大きく違っているため、発声できる音の種類に限界があり、人のようには会話することができない」というものでした。
これはそれなりに説明として説得力があり、原始の人類達がいつごろから私たちと同じように話せるかの指標として口の骨格や喉の構造を比較することで判明するのではないか、という研究が行われてきていました。

ですが、今回発表されたこの論文によりますと、猿の口や喉の構造においてそういった制約があるという証拠はない、ということなのです。
http://advances.sciencemag.org/content/2/12/e1600723.full

実はダーウィンが「猿が喋れない理由」を聞かれた際に「脳の問題」と答えたことがあるのですが、それは人間よりも脳容量の少ないチンパンジーでも言語を理解することがわかったあたりから懐疑的に見られていました。
それが、逆に今回の研究によって「やっぱり脳の問題なんじゃないか」と逆転する事態となっています。
こういう逆転に次ぐ逆転があるから、人類学の研究を追いかけるというのはなかなかやめられないものです。

もし、「脳の問題」であるということが事実であるならば、この研究を率いたフィッチ博士の言葉をそのまま引用すると原始人類達がいつ話し始めたのかを骨格から判断しようとすることは「全くの無駄だった」ということになります。
私が勉強始めたころはこの「口と喉の構造問題」という話はかなり広い共通認識をもって語られていたように思うので、それが全面的に書き換わるとなると実に面白いことです。

http://www.msn.com/ja-jp/news/opinion/%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%81%8C%E8%A8%80%E8%91%89%E3%82%92%E8%A9%B1%E3%81%9B%E3%81%AA%E3%81%84%E7%90%86%E7%94%B1%E3%81%AF%E3%80%81%E5%8F%A3%E3%82%84%E3%81%AE%E3%81%A9%E3%81%AE%E3%81%9B%E3%81%84%EF%BC%9F-%E3%81%9D%E3%82%8C%E3%81%A8%E3%82%82%E8%84%B3%EF%BC%9F/ar-BBxo3qb

これを発見したやり方としてはアカゲザルの口と喉をX線で通して撮影した写真を様々な条件(声を出す、食べる、表情を変える等)を元にどれだけ動くかを解析してモデル化。そのモデルに実際の言葉をしゃべらせてみる、ということまでやったそうです。この記事を書いている時点では未確認ですが、上記の日本語記事によればウィーン大学のサイトには「Will you marry me(僕と結婚する?)」と猿のモデルが喋る声が聞けるそうです。興味がある人は探してみてはいかがでしょうか。

さて、この言語能力の話としてもう一つ過去に大きな発見として報じられたFOXP2遺伝子(英語ではフォックスピーツージーンと呼んでました)というものがあります。これは先天的な言語障害者には欠けていることがわかった遺伝子で、この存在がネアンデルタール人といった大昔の人類にも確認されたことからその言語能力を図る指標として注目されました。
ですが、上記のように口や喉の構造に言語発声能力が依存していると考えられていると、いくらFOXP2遺伝子があっても構造的に発声できないのではどうしようもないのではないか?というのが概ね主流の考え方でした。
これもフィッチ博士の言葉を借りれば「もっとFOXP2に関する研究を進めた方が有意義だ」ということになります。

あくまで予想でしかありませんが、言語発声に関する神経を発達させると考えられる遺伝子FOXP2を探れば、もしかするとこれまで考えられていたよりもかなり古い時代から(それこそアウストラロピテカス種といったこれまで言語能力がないと考えられていた種も)話すことができていたという発見があるかもしれません。

特に言語能力の発達は集団で細かい作業を行う際には必須だと考えられるため、石器の作成と発達に大いに貢献していると考えられます。最初期の石器であるオルドワン石器は初期の人類だけでなく、アウストラロピテカスも作成者として考えられており、この研究が進むことで言語だけでなく、人類の技術進化の歴史にもう一つ重要な光が点ることが考えられるのです。

とはいえ、まだまだこのX線とモデルを用いた研究方法にも反論なりある可能性があるため、全てを鵜呑みにして結論を急ぐのは尚早なのですが、新しいブレークスルーの可能性を秘めている以上、これからも注目していきたいと思っています。






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  1. 2016/12/22(木) 18:18:04|
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ラスコー展感想

前から楽しみにしていた上野国立科学博物館のラスコー展に行ってきたので、その感想を書いてみます。
ラスコーはフランスにある旧石器時代の洞窟で、当時この辺りに住んでいたクロマニヨン人達が描いた巨大で美しい動物等の壁画で有名になりました。
最も古い美術作品の1つと歴史的に貴重な存在であると同時にその数とクォリティは群を抜いていて、特に旧石器時代に興味がなくても純粋なアートとして楽しめます。
が、逆にその飛びぬけた良さが大量の観光客を呼び込み外部からの二酸化炭素等などが充満した結果、壁画が急激に劣化するという事態になってしまったので、現在は一部の研究者達や修復作業を行う人員以外は基本的に入ることはできなくなってしまっています。
その代わりとして精巧に作られたレプリカを洞窟の側に設置し、こちらを見ることができます。
今回のラスコー展も同様に最近の技術で作られた壁画の実物大レプリカを鑑賞することになります。
IMG_5323.jpg
「なんだ本物じゃないのか」と思う人もいるでしょうし、確かに本物が見れるに越したことはありませんが、実際問題、本職の研究者でも物によりますがレプリカないし本物から型取りしたキャストを使うことは珍しくないわけでして、更にそのレプリカないしキャストから更に複製した物を使うことも十分あり得ます。当然、本物に近いほど貴重品ですので、お値段が物凄いことになっていきます。大学等研究機関も予算には限度がありますので、第一キャスト(本物から直接型取りした物)を手に入れた際に研究室の先生方が飛び上がって喜んでいたりします。
ラスコー展は実物を極小単位で精密にスキャンしたうえで作成された物ですので、普通に考えてどえらい貴重品です。それが千円なんぼのお金を払うだけで見られるのですから、なんとも良い機会に恵まれたものだと感激しています。
IMG_5316.jpg
今回は壁画だけでなく、ラスコー洞窟内の構造を示した巨大な模式図なんかも置いてありました。
IMG_5314.jpg
ラスコー洞窟は結構大きくて地図で見る構造自体は割とシンプルですが、数百メートルの道のりと上下の段差がありますので、例えが悪いのですがRPGの序盤ダンジョンくらいの大きさはあります。それで壁面には多くの動物たちが描かれているのですから荘厳たる光景です。
IMG_5327.jpg
壁画を描いたとされるクロマニヨン人の頭骨。解説にある通りクロマニヨン自体はラスコーから20kmほど離れたところにあります。
特にラスコー洞窟の中でクロマニヨン人の遺体が見つかった、ということはありませんが、年代と周囲の関係から見て恐らく間違いはないだろうという感じです。
私も以前は割と勘違いしていたのですが、その時代名称である旧石器にしろ、人骨と一緒になっているのは割と稀で、大体近くでこのぐらい見つかっているから、その他の痕跡等を頼りに恐らくこの人達に近い人々が作ったんだろうと類推しているわけです。
その石器の展示もありましたが、こちらは撮影禁止だったので割愛。結構しっかりとアシューリアン(左右対処石器)から、ルヴァロア技法、それからブレード(石刃)生成法の解説がされていたのですが、簡単なビデオ解説があると分かり易かったかもしれません。私は以前この辺りは実際に石器を削る実演を見るまでさ~っぱりでしたので……。まぁ、こちらが展示の中心ではなく補助知識みたいなものなんですが、せっかく石器も綺麗に集めていたのと、全体にスペースに余裕がありそうだったのでつい期待してしまいますね。
そういえば、頭骨模型を並べて、ハイデルベルグ人>ネアンデルタール人>現生人類(クロマニヨン人)と辿ってきたという解説でしたが、ホモ・ハイデルベルゲンシス(ハイデルベルグ人)ってネアンデルタール人の直接先祖だったっけ?とか若干、気になることも。
一応、ネアンデルタール人とクロマニヨン人が共存していた話はあるのですが、近年ではネアンデルタール人の遺伝子が現生人類に残っていることが分かったりしているので、この辺り旧人の関係は割とカオスな感じになってきているのですが、日本的にはまだまだ順番になっているほうが分かり易いのかなぁ、とか思ったりしました。
IMG_5321.jpg
さすがに絵の解説はしっかりビデオが用意されていて、この馬の絵は後ろにたくさんの馬が描かれた後に上書する形で描かれたらしくて、それがビジュアル的に見れるのは嬉しかったですね。
ここまで来ると考古学というより美術研究って趣になってくるので、いろんな知識が必要だと感じます。
それから、大型のタブレットで美術様式の解説も見れます。ポイントを押すとこういう様式で……というのが出てくるのですが、なんとなくインターフェースと操作感に慣れなかったです(汗……。

ラスコーの後は日本国内の石器の展示もあって、時代と場所もだいぶ違うのですが、欧州と日本の石器を双方で比較できます。あまり国内のものはちゃんと見てなかったので、黒曜石のブレードなんかはその大きさと精巧さに驚きました。これだけ大きく鋭利なものを大量に生産できるなら、そりゃわざわざ海を越えてでも取りに行くな、と。

そんなこんなで私自身は思った以上に楽しめた展示だったのですが、客層としてはいつもの特設展示に比べると若干少なめな感じでしたかね。旧石器時代というとまだまだあまりとっつきがないのかもしれません。とはいえ、ちょっと絵に興味があるレベルでも十分に楽しめるように配慮してあるとは思いますし、来年の2月頭までやってるみたいなので、これを読んで気になった方は足を運んでみてはいかがでしょうか。





テーマ:展示会、イベントの情報 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2016/11/29(火) 01:12:01|
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男女の思考の差という幻想

今回は、男女で身体が違うのは当前だけど、それを思考のレベルまで求めるのは違うのではないかという実に夢のない話をします。

よくある言説の一つに、「大昔、男は狩りをしていたので冒険的かつすぐに結論を求める思考に、女は子育てをするので保守的、周囲との協調を重視する思考になった」というものがあります。

実際のところ、これに対する科学的な根拠は全くありません。
なぜなら、そもそも、はるか昔男女で狩りと子育てが分かれていた、という直接的な証拠がないのです。
むしろ、発掘される人骨から、男女ともに相当な身体的疲労があったことがうかがえることから、男女問わず相当な肉体的労働を行った可能性が高いことが分かっています。

初期の人類の集団はあまり規模が大きくないこともあって、あらゆる労働はその集団内で掛け持ちしないとやっていけなかったと考えるほうが自然でしょう。
分業というのは比較的発達した大きな集団内でなければ成り立たないのです。
これは学校で大きな強豪部ではマネージャーや新入生がレギュラーの世話をしたりしますが、弱小部では全員で必要作業が分担されることからも容易に想像できると思います。
つまり、現実的な推測をする限り、大昔は男女関係なく狩りもやれば子育てもやっていた可能性が高い、と考えられます。
*この辺りは当ブログでも過去にwoman as huneterの項目でちょっとくどめに書きました。
ただ、昔は乳幼児には母乳を与えるしか術はなく、乳幼児は一日中頻繁に食事が必要ですから母親が常に傍にいる必然性がありましたが、ある程度大きくなってくるとこの限りではなかったでしょう。

なぜ、「大昔は男女で分業していたから」という言説が出たのかといいますと、昔の研究で、単純に現在の狩猟民族の社会をモデルにしたから、でしかなかったりします。
たまたま、現代に残っていた数少ない狩猟民族のほとんどが狩りと子育ての分業が多く見られたので、大昔もそうだったのだろうと想像したに過ぎないのです。
しかし、普通に考えれば、これらの現代に残る狩猟民族も過去から続く長い歴史の中で(先進国の社会から見れば小さいものの)少なからず変革を続けてきて"発達した社会"を持っているのであって、一概に大昔の生活のモデルとして見てしまうのは間違いであることがわかっています。 [男女の思考の差という幻想]の続きを読む

テーマ:文明・文化&思想 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2015/03/25(水) 19:59:27|
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ネアンデルタール人の彫刻?とわけわからんの頭の良さ

最近は軍事系ゲームの製作を続けていますが、ちょっと前にネアンデルタール人に関する新しいニュースが入ってきたので、久しぶりに人類学ネタで記事を書いてみたいと思います。
ニュースはいくつかのメディアで報道されましたが、いわゆるネアンデルタール人による彫刻?らしきものが見つかったというものです。
とりあえずそこそこに詳しく書いてある毎日新聞からの記事を引用します。

ネアンデルタール人による彫刻を発見か
 イベリア半島、南東端のイギリス領ジブラルタルで、3万9000年以上前のネアンデルタール人が苦灰岩(くかいがん)に刻んだと考えられる抽象的なパターンが発見された。その後の最新の研究から、現生人類しか持たないとされていた抽象的な思考能力を、彼ら旧人が既に備えていたのではないかという可能性が生まれている。


さて、いきなり彫刻だといってこの数本のラインが刻まれたのを見せられても、普通はなんのこっちゃ?という感じだと思うので、元の論文を確認しつつ、その辺りを少し説明していきます。

元の論文は以下より見つけることができます。

A rock engraving made by Neanderthals in Gibraltar
Rodirguez-Videl et al.,

The production of purposely made painted or engraved designs on cave walls is recognized as a major cognitive step in human evolution, considered exclusive to modern humans. Here we present the first known example of an abstract pattern engraved by Neanderthals, from Gorham’s Cave in Gibraltar. It consists of a deeply impressed cross-hatching carved into the bedrock of the cave older than 39 cal kyr. The engraving was made before the accumulation of Mousterian layer IV. Most of the lines composing the design were made by repeatedly and carefully passing a pointed lithic tool into the grooves, excluding the possibility of an unintentional or utilitarian origin. This discovery demonstrates the Neanderthals’ capacity for abstract thought and expression.

以下は私による適当翻訳。
>ジブラルタルのネアンデルタール人による岩石彫刻
洞窟壁面に目的を持って描かれた、もしくは彫られたものは人類進化における重要な認識の発達として考えられており、特に現代人類にのみ存在すると考えられてきた。だが、我々は初めてジブラルタルのゴーラム洞窟のネアンデルタール人による抽象的なパターンの例を紹介する。これは3万9千年前の洞窟の岩盤に十字型に深く刻まれたものである。この彫刻はムステリアンIVの積層よりも古いものである。この線による印のほとんどは何度も慎重に尖った石器が溝を通ることによって作られたものであり、偶発的だったり何か実用的なものの結果できあがったという可能性を否定する。この発見はネアンデルタール人が抽象的な考えや表現を行う能力を持つことを示唆している。


余談ですが、このPNAS(ピーナスと読む)という雑誌は無料でネット公開している記事が非常に多く、人類学関係の発見の中でも特に注目されるものがいち早く読めるので、非常に良いですね。

さて、日本語で"彫刻"という表現になるとなんだか凄そうで期待してしまうんですが、ここで言われているのは洞窟の岩に何かしらの意図をも持って付けられた傷跡、という程度のものです。
実際問題、これがなぜ付けられたのか理由は全然わかりません。見つかったのはネアンデルタール人がゴミ捨て場にしていた場所なのですが、大して考えることのない単なる暇つぶしだった可能性が多いにあります。
いわゆる、暇になったときになんとなく手元に鉛筆かペンがあると適当になにか書いてしまうような、そういう行動に近いでしょう。
しかし、それが「な~んだ、ただの落書きか暇つぶしか」とならずに、むしろ、そういう行動が現代人以外にあったのだ、というのがすごく重要だというのが今回の発見なのです。

人類の進化史において、人と動物の分かれ目というのは非常に重要なところです。ネアンデルタール人を例とした絶滅した人類達はどこまで動物でどこまで現代人に近いのか、というのは"なぜ我々人類だけが他の人類が滅んだのに生き残って繁栄したのか"という点を探す上でキーとなる要素とも考えられています。
そして、その要素として真っ先に注目されるのが知能であり、現代人と絶滅人類達の知能の差、というのを証明する証拠が必要になるわけです。

一般的には「頭が良かったから生き残ったんだ」ということになりますが、この"頭の良さ"というのが結構な曲者。
なぜならあらゆる動物は通常生き残るために必要十分な脳(もとい神経系の塊)を保持しているからです。
生き残るために必要な脳が必要な情報を統合して動物を生存に導かせるのですから、あらゆる動物は生き残るという点においては「頭がいい」ということになります。
では、人間と動物の脳でなにが違うのかといえば、一言で言うと人間の脳は生き残る以外の"無駄な思考"を行う、という点が大きく異なるといわれています。
自身や自身の所属するグループの生存に役に立つ知識以外のものを作るというのは他の動物では考えられないことです。
例えば、鳥や猿や狼も"遊ぶ"ことが確認されています。しかし、これらの行動は狩の予行練習だったり、グループ内の順位獲得に必要だったりと、なにかしらの"具体的な利益のための行動"であったりします。
一方で人間はなんの利益になるのか全然分からない抽象的な行動を取ることができます。
例えば、前述の暇なときに適当な落書きをするのを始め、なんとなくペンを回してみたりとか、なんとなく机をとんとん叩くとか、もそういう行動に入ります。
利益にならない抽象的な行動、というと専門的でいまいちぴんと来ませんが、ようするに「理由がないわけがわからない行動が取れるから他の動物と違って頭がいい」ということです。
なんという逆転の発想もいいところだと思うかもしれませんが、そういう前提で読まないとこの発見も"わけがわからない"ことになってしまいます。

*画像は記事とまったく関係ないという意味において関係しています。
139_large.png

e3828fe38191e3828fe3818be38289e382935b25d.jpg

そして、今回の発見において、十字に刻まれた洞窟の線の跡が何度も何度も石器によって刻まれていること、そして、それが具体的になにかに役に立つ理由が全くないこと、がネアンデルタール人がとった"わけわからん行動である"ことの証明となり、見事ネアンデルタール人は猿とかとは違う、我々現代人とほぼ同じ「抽象的活動を行うことができる」ことが分かったのです。
異論はもちろん今後出るでしょうけれど、とりあえず発見した研究者達はそういう類の主張をしているということです。

実はこういう古代人類による石器を使って岩になにか刻み込まれていると思われる発見事態は過去にもありました。
ただし、線がよりシンプルだったりして、人類以外の動物(熊みたいなのとか)が引っかいた可能性が捨て切れなかったり、また、抽象性を主張する根拠に乏しかったりしました。
今回は発見した"彫刻"がそこそこに複雑な形をしているのもさることながら、その線の部分の細かい成分分析をしたり、さらに3Dグラフィックに起こして個々の状況を比較検討したりした結果、過去にはない抽象性を示唆する根拠を発見できたということになるのです。
graph.png
*図は論文から引用。これだけ細かい分析を行っている。

「無駄な行動だというのを探すためになんて無駄にとんでもない努力をしているんだ」と思う人もいるとは思いますが、人間無駄があったからこそ今の社会があるのは恐らく事実ですし、抽象的な行動がなかったら実に退屈になっていたかもしれないのですよ。
さらにそういう抽象的な行動ってのは余裕の裏返しだったりもするので(常に他の動物に襲われるような危険があるところでは絶対にやりっこない)、やはり普通の動物にはできない"知能の高さの証明"なのです。

ただ、もしネアンデルタール人にも現代人並に抽象的な行動が取れるとすると、ますますネアンデルタール人が滅びてしまった理由がわからないことになるんですよね。発見が続くたびに現代人との差がむしろ小さくなっていくネアンデルタール人。果たして絶滅の根拠となる発見が出るのか、今後も注目していきたいところです。





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  1. 2014/09/14(日) 22:59:28|
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