The Wizard of Science

人類学のこと、歴史・考古学のこと、航空機のこと、特許のこと、海外の言語や書籍、などなど、たまには横道にそれたりする長文が多めなブログです。

日本人は本当に農耕民族なのか?

 最近はあまり聞かなくなったような気がしていたのですが、ここ数日ネットで色々調べものをしている時に「欧米人は狩猟民族、日本人は農耕民族」という話を見てしまいました。
 いわゆる比較文化論の話なのですが、これは実は激しく間違っておりまして、西洋は肉が中心>肉は狩りで取る>狩猟採集民族だ、とか、狩りを良く楽しんでいるから、みたいな認識で書かれているとちょっと頭を抱えてしまう次第。ヨーロッパの食事の中心は肉、や、みんなよく狩りを楽しんでいる、という認識もまたそれはそれで間違っているのですが、結構未だに信じている人はそれなりの数いるようです。
 実際は日本の農耕民族に対して比較した言葉は「牧畜民族」という言葉でして、日本人の農民が生活の中心に稲作を置くのに対して、欧州では家畜を中心に考える、という比較の仕方で、これはまた正確に言うと違うところも結構あったりするのですが、比較の方法としてはそれなりに認められたこともあるものです。

 それでは「狩猟民族」とは何か?
 これはいわゆる農耕も牧畜もやっていない状態。日々の糧を得る方法がそこら辺りに生息している野生の動物を狩って生活する民族のことです。
 当然、それだけだとビタミンが不足するので、野生の木の実や草なども"採集"して食べたりします。
 この狩猟と採集を合わせて通常は"狩猟採集(Hunter-gathering)"と呼んでいます。
 まだ植物を栽培する知識や家畜を飼う知識がなかった頃の人間はこの方法で日々の生活を送っていたと考えられています。
 しかし、ある時期を境に世界中で狩猟採集生活から農耕・牧畜を中心とした生活へと変転し、それまで獲物を追って移動していた人間は各地に定住し、文明が造られ、栄えることになります。

 さて、西洋人を"狩猟民族"と散々呼んでおきながら、実は"日本人のほうが長い間狩猟採集生活をやっており"、その後近代に近づいてもある意味"狩猟採集的な生活"をしているともいえます。
 その理由としてはまず単純に年代の話。欧州では早い地域では7000B.C(今から約9000年前)には農耕・牧畜が始まっており、6000年前には一部の特殊な地域を除いて概ね全土に広がるわけですが、日本において農耕の確認が出来るのは縄文時代の晩期で全土に広がるのは弥生時代ですから、せいぜい3000-2000年ぐらい前の出来事ということになります。不思議なことに世界的に見ると保存の観点から土器の発達と農耕はおよそ同時期に始まるのですが、日本では縄文土器という世界で最も古い部類の複雑かつ多彩な土器を持っていながらなかなか農耕が定着しませんでした。遅かった理由として恐らく日本列島では野生で取れる食料が比較的豊富で、本格的な稲作は大陸から齎されたというのもあるかもしれません。欧州は主に中近東から渡ってきた人達によって農耕・牧畜が広まっていったようです。
 次に牧畜に適する土地があまりなく、近代になるまで大規模に食肉や搾乳用の家畜を飼う文化がなかったこと。一方で魚食には異様に熱心で、日本周辺どころか世界中に出かけて行ってまで魚を取りにいっていることです。一応魚は養殖も進んでいるのですが、日本人が好む魚には外遊魚も多く、それは未だに"自然のサイクルに頼っています"。急激な環境の変化があれば量は大幅に増減してしまします。安定的に畑で作物を取り、家畜を飼って暮らす生活とは完全に異質なものです。

 日本人は農耕民族で米を育てて生活の中心にしてきた。だからとても安定志向で、西洋人のように自分を押し出していかない。いわゆる、日本人農耕民族論はこんな感じなのですが、本当にそうでしょうか?そもそも的にそういう一概に言い切ってしまう民族論も怪しくはあるのですが、あえて考えてみましょう。

 もし、安定志向であるならば、恐らく食料は安定的に取れるものを選択し、質が高くても苦労したり危険な目にあわないと手に入らないなら避ける傾向にあるはずです。さて、最近はどの国もグローバル化が進んでいますが、こんなに世界中に飛び出していって食卓に並べる料理の材料を必死に探してくる民族なんて日本人ぐらいです。そんなに安定志向が好きなら、さっさと周りは田んぼや畑、牧畜のための農場に変えて、他の国でしか手に入らないもので食卓を構成するのは諦めればよいのですが、間違いなくそんなことはしない、と私は思います。
 一応、経済的な理由で第三国で生産して輸入したが安い、というのはありますが、私は日本人は根本的な民族的性格としては実は全然安定志向でもなんでもなく(一部の裕福な人達は現状安定していたほうがいいのでしょうが…)、むしろ危険は認識していても、それ以上に重要だと思ったら突っ走る傾向にあると思っています。だから、仮に外国の食料の値段が高騰したとしても日本人は良いものだと思ったら買い求めるでしょう。

 そういう性格は農耕・牧畜的なものではなく、むしろ狩猟本能に近いはずです。




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テーマ:文化人類学 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2012/02/26(日) 20:53:26|
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