The Wizard of Science

人類学のこと、歴史・考古学のこと、航空機のこと、特許のこと、海外の言語や書籍、などなど、たまには横道にそれたりする長文が多めなブログです。

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これから翻訳をやりたい人達へ

 今更ながら、私は現在翻訳会社に勤めています。
 世間一般的には体の良い仕事なのですが、実際、翻訳って仕事としてどうなの?といわれると非常に微妙なところだったりします。
 もちろん、この仕事をやる上で楽しみや喜びというのも少なからず感じています。
 しかし、その一方で大きな負の面も抱えているのも残念ながら事実であったりします。

 "翻訳"で検索すると、かなりの数がヒットし、現在あちこちでグローバル化が進められていることもあって、語学に対して興味のある人は増えていますし、その語学が好きなことを生かせる場として翻訳業というのは最適というのも分かります。
 ただし、その語学に興味がある人が増える一方で、その詳細に関して情報公開というのは極端に遅れていると私は思っています。
 そして、その情報公開が遅れて、具体的な事実に基づかないイメージのみが先行し、またそれを利用していろんな会社(これは翻訳に限りません)がビジネスに"利用"してきたのもこれまた動かない事実なのです。

 私自身、この業界でまだ5年も経っていないですし、翻訳自体も最初に少し行っただけで、今は品質管理と人事に近いポストにいるため、"詳しい"と言えるほどではないのですが、少なくとも、翻訳といって明るいイメージにのみ注目される今の風潮にはどこかで切り込みをいれなきゃいけないだろうなぁ、と思っています。
 特に、これから翻訳をやりたいと思っている人達に、僭越ながら"会社側"の立場と"顧客"という面から見て、少し現実を知った上で今後の進路を決めていただきたいと思っています。

1、翻訳業はビジネスとして割に合わない。
 よほど定期的な仕事がある企業と業務提携できるならともかく、全般に不特定多数を対象にした翻訳業は割に合わない仕事です。
 なぜ、安定しないかといえば、"翻訳は一回作成してお金を貰ったらそれっきり"で"量産が効かず、使い回しが行えない"という当たり前の事実が邪魔をするからです。
 これはちょっと会社に入って話を聞いたり、ビジネスの基礎が分かる人であれば、ものすごいデメリットであることが分かります。
 ただし、翻訳した本を出版するとなると話は違ってきます。翻訳にも著作権があるので、翻訳家には出版した本が売れればその分一応収入になります。
 ですが、これはどちらかというと"作家"に近い職業で、大多数の"産業翻訳"と呼ばれる分野では基本的に著作権を放棄している状態になります。本当は厳密に法律的に言うと放棄はできないのですが、一応そういう約束事で翻訳は取引が行われています。だから、支払われるのは作業した分に対する対価のみ、です。
 そして、毎回毎回作業量が決まっておらず、また、それがいつ入ってくるのかも分かりません。
 当然ですが、収入も労働量も運が良くない限り激しく上下します。
 コネとツテが確保できないのであれば、ビジネスとして自殺に等しい業務です。
 正直に言えば、私も定期的に決まった量の仕事を出す某所との取引がなければ会社を見限っているところでした。


2、能力が著しく足りてない。

 翻訳を目指す人達はこれを自覚すべきだと思います。
 世間には翻訳者になるための学校や、大学でのコースなんかもあったりします。
 しかし、それを卒業したとしても、すぐに翻訳で生活できる仕事にありつけるとは限りません。と、言いますかほぼ不可能だと思っていただくのが良いと思います。
 仮に卒業したとしても、海外と取引のある企業・外資系・官庁等に語学力をアピールして就職する手段として活用するのが無難です。
 なぜなら、翻訳の仕事としてお願いされるものの多くは"会社の中で国内・海外向けに使われる書類"を作成することが望まれており、さらに"その中で作業する従業員並みかそれ以上の翻訳が出来ること"が望まれるからです。
 とどのつまり、翻訳をお願いしたい所というのは"社内で翻訳にかけている時間がないから、外に発注する"わけです。
 そして、今時の企業というのはその翻訳を発注している会社の人というのは"以前に語学学習をした経験と、社会経験がある"人達なわけです。
 その人達の満足できる翻訳を出せる自信がないなら止めた方がいいです。少なくとも"語学学習をした"だけでは明らかに足りず、会社に入って、基礎的な社会経験を積んで、判断力を養ってから出ないと危険です。恥をかくだけならともかく、トラブルが起きたら翻訳者自身で責任なんか取れません。トラブルが起きても大抵は会社が間に入ってなんとかしますが、どう考えても仕事はそれまでです。
 これもあくまでそれなりに語学力があっての話です。学校を出てくる時点でのほとんどの人はまず"語学力すら激しく足りていません"。少なくとも日常的に外国語に触れる機会を何年も続けていないのであれば、一番簡単な仕事でも任せるのは不安です。
 以前に、翻訳はずっと家で仕事ができるからニートでもできる、という発言を見かけたことがあったのですが、そもそも経験と語学力の両方が足りないと考えられる人を会社が使おうとは絶対に思わないでしょう。運よくトライアルに受かったとしてもよほど運と不断の努力がない限りその後の継続が出来るとは考えにくいです。


3、単純なものは機械がやる。
 それでも翻訳ならわざわざ会社に行かなくてもいいし、楽なんじゃないか、と思っている人達へ。
 個々人の感性にも依りますが、あなたが普通の人であれば悪いことは言わないですから、辛い通勤ラッシュ時間、口煩い上司と顧客、そして、労務規定無視の残業押し付け、の方が数倍マシと言っておきますし、その方が楽だし、儲かります。
 先ほどの能力とも関連しますが、一部では翻訳ソフト等も高性能なものが出回っており、かなりの部分が自動化されるようになって来ました。
 それを利用して、今まさに業務を行っている会社・個人の方もいらっしゃるようです。
 ですが、そもそも機械で楽して翻訳できるならなぜ、それをわざわざ外注し続けなきゃいけないんでしょうね?
 当然、システムを社内で構築してしまった方がわざわざ発注する手間も省けますよね?
 ソフトを秘匿し続ければ外注せざるを得ない状況が続くかもしれませんが、ITがこれだけ進歩し広まる中でそれがいつまで持つのか正直疑問です。
 それに、どの会社でも同じように適応できるほどの汎用性をソフトに求めるのは酷ですし、翻訳にバリエーションがあるように、一つ一つ相当に違うものを求められるのではないでしょうか?それこそビジネスとしてはかなり非効率です。

 一方で、やはり言語特有の難しさ等があって、完全に機械で全ての翻訳が完結するのは不可能ということも分かってきています。
 ですが、そういう文章というのはなおさら、翻訳する側に強烈な労力とそして知識と経験を要求するものです。
 大抵において、翻訳のコストというのは文字数に比例するようになっています。1ワード10~16円とかそんな感じです。
 ですから、端的に言えば、"単純な文章を機械的に翻訳していく方"が翻訳者にとって効率的です。
 ですが、置き換え程度で済むよう単純な文章は"機械で十分"になってきているわけです。
 "用語が予め規定されている"のであればなおさら人間がやるのは不安です。
 そういうわけで、今後人の翻訳者に要求されるのは"より難解な文章、専門的な文章"になってきます。
 数行の文章翻訳でちょっとした置き換えと文法・スペルチェックで済んでいたものが、今後はより"調べ"と"解釈"という作業を要求されるようになるわけです。
 前者であれば数行の文章を数分で翻訳できても不思議ではありませんが、後者は熟達者でも数時間かかって不思議ではありません。
 今でも文章ごとに難易度に大幅な違いがあるのに、ワードあたりの単価を上げても割にあうとは思えませんが、このデフレの中で単価上昇に答えてくれる会社がどれだけあるでしょう?
 金額の考証をするためなら、それこそ"誰でもできる翻訳"ではなく、"特殊な分野"の知識を得て、それを使って効率的に作業する能力が求められていくのではないでしょうか?

最後に
 色々と厳しいことは書いてきましたが、それでも翻訳に向いている人、というのはいます。
 人付き合いが苦手な変わりに語学に対する興味と努力が飛びぬけていて、儲からないと分かっていても文章をしっかり読み込んで解釈し、細かい文章のミスに気がついて、丁寧に書くことに生き甲斐を感じる人…はすごく向いていると思いますし、それで生活できるなら願ったりだと思います。
 ですが、今、翻訳者になりたいという人の90%以上はそういう人ではありません。
 どちらかというと書くよりもお話しするのが好きだったり(女性に特に多い)、語学も実はファッショナブルだからとやっていてあまり深い文法や単語の解釈論が好きじゃなかったり、楽できて儲かると信じていたり、実は大雑把で自分のミスにも最後まで気がつかない…人が大半です。
 もちろん、完璧な人というのはこの世に居ないように、完璧に翻訳が出来る人というのはいません。
 しかし、それでも向き不向きというのがあります。
 少なくとも、そういう事実を知った上で、自分はどうしてもこの道しかないと思うなら、止めることはありません。
 ですが、勘違いしたまま飛び込んでしまうのは不幸しか呼びません。
 そういう人が今後少しでも減るように、このブログを読んで、もし自分や身内で翻訳をやろうと思っている人がいましたら、軽くでいいので(あんまり強く言うと人間関係に響くので)、注意喚起を促していただけると今後より苦労する人が減るのではないかと願っています。


 〆

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テーマ:語学の勉強 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2012/09/15(土) 12:13:31|
  2. 翻訳関連
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