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人類学のこと、歴史・考古学のこと、航空機のこと、特許のこと、海外の言語や書籍、などなど、たまには横道にそれたりする長文が多めなブログです。

ネアンデルタール人の彫刻?とわけわからんの頭の良さ

最近は軍事系ゲームの製作を続けていますが、ちょっと前にネアンデルタール人に関する新しいニュースが入ってきたので、久しぶりに人類学ネタで記事を書いてみたいと思います。
ニュースはいくつかのメディアで報道されましたが、いわゆるネアンデルタール人による彫刻?らしきものが見つかったというものです。
とりあえずそこそこに詳しく書いてある毎日新聞からの記事を引用します。

ネアンデルタール人による彫刻を発見か
 イベリア半島、南東端のイギリス領ジブラルタルで、3万9000年以上前のネアンデルタール人が苦灰岩(くかいがん)に刻んだと考えられる抽象的なパターンが発見された。その後の最新の研究から、現生人類しか持たないとされていた抽象的な思考能力を、彼ら旧人が既に備えていたのではないかという可能性が生まれている。


さて、いきなり彫刻だといってこの数本のラインが刻まれたのを見せられても、普通はなんのこっちゃ?という感じだと思うので、元の論文を確認しつつ、その辺りを少し説明していきます。

元の論文は以下より見つけることができます。

A rock engraving made by Neanderthals in Gibraltar
Rodirguez-Videl et al.,

The production of purposely made painted or engraved designs on cave walls is recognized as a major cognitive step in human evolution, considered exclusive to modern humans. Here we present the first known example of an abstract pattern engraved by Neanderthals, from Gorham’s Cave in Gibraltar. It consists of a deeply impressed cross-hatching carved into the bedrock of the cave older than 39 cal kyr. The engraving was made before the accumulation of Mousterian layer IV. Most of the lines composing the design were made by repeatedly and carefully passing a pointed lithic tool into the grooves, excluding the possibility of an unintentional or utilitarian origin. This discovery demonstrates the Neanderthals’ capacity for abstract thought and expression.

以下は私による適当翻訳。
>ジブラルタルのネアンデルタール人による岩石彫刻
洞窟壁面に目的を持って描かれた、もしくは彫られたものは人類進化における重要な認識の発達として考えられており、特に現代人類にのみ存在すると考えられてきた。だが、我々は初めてジブラルタルのゴーラム洞窟のネアンデルタール人による抽象的なパターンの例を紹介する。これは3万9千年前の洞窟の岩盤に十字型に深く刻まれたものである。この彫刻はムステリアンIVの積層よりも古いものである。この線による印のほとんどは何度も慎重に尖った石器が溝を通ることによって作られたものであり、偶発的だったり何か実用的なものの結果できあがったという可能性を否定する。この発見はネアンデルタール人が抽象的な考えや表現を行う能力を持つことを示唆している。


余談ですが、このPNAS(ピーナスと読む)という雑誌は無料でネット公開している記事が非常に多く、人類学関係の発見の中でも特に注目されるものがいち早く読めるので、非常に良いですね。

さて、日本語で"彫刻"という表現になるとなんだか凄そうで期待してしまうんですが、ここで言われているのは洞窟の岩に何かしらの意図をも持って付けられた傷跡、という程度のものです。
実際問題、これがなぜ付けられたのか理由は全然わかりません。見つかったのはネアンデルタール人がゴミ捨て場にしていた場所なのですが、大して考えることのない単なる暇つぶしだった可能性が多いにあります。
いわゆる、暇になったときになんとなく手元に鉛筆かペンがあると適当になにか書いてしまうような、そういう行動に近いでしょう。
しかし、それが「な~んだ、ただの落書きか暇つぶしか」とならずに、むしろ、そういう行動が現代人以外にあったのだ、というのがすごく重要だというのが今回の発見なのです。

人類の進化史において、人と動物の分かれ目というのは非常に重要なところです。ネアンデルタール人を例とした絶滅した人類達はどこまで動物でどこまで現代人に近いのか、というのは"なぜ我々人類だけが他の人類が滅んだのに生き残って繁栄したのか"という点を探す上でキーとなる要素とも考えられています。
そして、その要素として真っ先に注目されるのが知能であり、現代人と絶滅人類達の知能の差、というのを証明する証拠が必要になるわけです。

一般的には「頭が良かったから生き残ったんだ」ということになりますが、この"頭の良さ"というのが結構な曲者。
なぜならあらゆる動物は通常生き残るために必要十分な脳(もとい神経系の塊)を保持しているからです。
生き残るために必要な脳が必要な情報を統合して動物を生存に導かせるのですから、あらゆる動物は生き残るという点においては「頭がいい」ということになります。
では、人間と動物の脳でなにが違うのかといえば、一言で言うと人間の脳は生き残る以外の"無駄な思考"を行う、という点が大きく異なるといわれています。
自身や自身の所属するグループの生存に役に立つ知識以外のものを作るというのは他の動物では考えられないことです。
例えば、鳥や猿や狼も"遊ぶ"ことが確認されています。しかし、これらの行動は狩の予行練習だったり、グループ内の順位獲得に必要だったりと、なにかしらの"具体的な利益のための行動"であったりします。
一方で人間はなんの利益になるのか全然分からない抽象的な行動を取ることができます。
例えば、前述の暇なときに適当な落書きをするのを始め、なんとなくペンを回してみたりとか、なんとなく机をとんとん叩くとか、もそういう行動に入ります。
利益にならない抽象的な行動、というと専門的でいまいちぴんと来ませんが、ようするに「理由がないわけがわからない行動が取れるから他の動物と違って頭がいい」ということです。
なんという逆転の発想もいいところだと思うかもしれませんが、そういう前提で読まないとこの発見も"わけがわからない"ことになってしまいます。

*画像は記事とまったく関係ないという意味において関係しています。
139_large.png

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そして、今回の発見において、十字に刻まれた洞窟の線の跡が何度も何度も石器によって刻まれていること、そして、それが具体的になにかに役に立つ理由が全くないこと、がネアンデルタール人がとった"わけわからん行動である"ことの証明となり、見事ネアンデルタール人は猿とかとは違う、我々現代人とほぼ同じ「抽象的活動を行うことができる」ことが分かったのです。
異論はもちろん今後出るでしょうけれど、とりあえず発見した研究者達はそういう類の主張をしているということです。

実はこういう古代人類による石器を使って岩になにか刻み込まれていると思われる発見事態は過去にもありました。
ただし、線がよりシンプルだったりして、人類以外の動物(熊みたいなのとか)が引っかいた可能性が捨て切れなかったり、また、抽象性を主張する根拠に乏しかったりしました。
今回は発見した"彫刻"がそこそこに複雑な形をしているのもさることながら、その線の部分の細かい成分分析をしたり、さらに3Dグラフィックに起こして個々の状況を比較検討したりした結果、過去にはない抽象性を示唆する根拠を発見できたということになるのです。
graph.png
*図は論文から引用。これだけ細かい分析を行っている。

「無駄な行動だというのを探すためになんて無駄にとんでもない努力をしているんだ」と思う人もいるとは思いますが、人間無駄があったからこそ今の社会があるのは恐らく事実ですし、抽象的な行動がなかったら実に退屈になっていたかもしれないのですよ。
さらにそういう抽象的な行動ってのは余裕の裏返しだったりもするので(常に他の動物に襲われるような危険があるところでは絶対にやりっこない)、やはり普通の動物にはできない"知能の高さの証明"なのです。

ただ、もしネアンデルタール人にも現代人並に抽象的な行動が取れるとすると、ますますネアンデルタール人が滅びてしまった理由がわからないことになるんですよね。発見が続くたびに現代人との差がむしろ小さくなっていくネアンデルタール人。果たして絶滅の根拠となる発見が出るのか、今後も注目していきたいところです。





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テーマ:アート - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2014/09/14(日) 22:59:28|
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