The Wizard of Science

人類学のこと、歴史・考古学のこと、航空機のこと、特許のこと、海外の言語や書籍、などなど、たまには横道にそれたりする長文が多めなブログです。

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家庭においてご注意ありたき事

10月になって秋めいてきて欲しいところですが、まだまだ暑いですね。
今回はひょんなことから大正13年に配布された小学校の通信簿を見る機会があったのでその一部を紹介いたします。
大正13年は西暦に換算しますと1924年。第一次大戦と第二次大戦の間となる戦間期になり、まだ世界恐慌は起こっていないものの、世界は不穏な情勢にあり、その後の混乱の予兆となるものが起き始めている時期でもあります。
そんな時期、日本の小学生に向けてどのような教育が行われていたのか、その一端を垣間見ることができる1次資料として扱えるでしょう。
まず、1頁目には当然のように書かれている「明治天皇と照憲皇太后がどのようなお人だったのか」というもの。これを忘れては日本国民を名乗れませんね。
続いてあるのが江戸時代の高名な陽明学者中江藤樹先生のお言葉。「家をおこすも子孫なり、家をやぶるも子孫なり」というもの。この言葉はたまに聞きますが、ここまで取り上げられていたとは知りませなんだ。
そして、出てきました教育勅語です。正式には教育ニ関スル勅語というらしいのですが、ここでは単に”勅語”とだけ書かれています。これと戊申詔書を合わせて、珍思うに…から始まる日本人としてのありかたを示した道徳的文章を毎回授業の前には一斉に読み上げるのが日課だったとのこと。そのあとには御沙汰書が続いており、ありていに言えば「天皇陛下が仰っていらっしゃるのだから、真面目にがんばれ」ということになるのだと思います。よく言われる教育勅語の12の徳目についてですが、記載はありませんでした。手に入れたのは通信簿ですからあくまで扉的な扱いで、実際に読むものは教科書等に記載してあったのでしょう。なんにしろ、この辺りに関しては調べれば割と出てくるので、特にここで解説する必要はないでしょうね。

さて、本題はこの後に続き、この記事の題名にもなっている「家庭においてご注意ありたき事」です。実はこの前に小学校の本旨などが書かれているのですが、割とさらっと数行で終わっています。それに対して家庭への注意は17項目2ページにわたって続いており、いかに学校が家庭に熱を入れて伝えたいのかがわかるというもの。
それでは、1つ1つ要らないかもしれませんが私の感想を交えて見ていきましょう。
なお、原文の旧かな旧漢字は現代のものに置き換えていますので、あしからず。

1、 この帳簿をうけとられたときは良く見たうえで相乗欄に印を捺してください。
*日本の判子文化は強いですね。なお、成績欄には1つ1つの項目に捺印欄があるので、かなり念入りです。確認する方も大変だ……。

2、 毎日、1年2年3年は30分、4年5年6年は一時間および二時間復習と予習をさせて、その習慣をつけてください、又にあい相乗に1定の仕事をあてがって下さい。
*最近は知らないのと私のころもうろ覚えなのですが、予習復習は概ね1時間以上といわれていたような気がします。高学年で中学受験があれば2時間では足りない気もするので、若干緩い感もします。それよりも重要なのは”仕事をさせろ”と言っていることです。当時は小学生が仕事をするのは当たり前だったのです。中高校生がアルバイト禁止されている場合じゃないですね。

3、 児童の欠席・遅刻・早引きなどは学業の進歩によほど害がありますから病気と忌引きとの外はなるだけさせぬようにして下さい。
*”学業の進歩によほど害がありますから”という言葉に力を感じます。不登校などもってのほかですね。学校しか勉強できる機関がないので、塾などがある今と違い影響も大きかったのだろうとも思われます。

4、 児童の働いて得た金はぜひ貯金させてください。なお、金銭を無駄遣いせぬよう注意してください。不審のあるときはすぐ学校へお掛け合いください。
*小学生が働くのは当たり前ですが、残念ながらお金は自分の自由にはならないようです。この書き方を見るに、買い食いなどしようものなら/疑われたなら、学校に連絡が行くようです。小学生のころからうかつな行動はできませんね。

5、 身体・頭髪・着物などはいつも清潔にさせてもらいたい、特に女子の頭髪は時々洗って臭くないようにさせてください。
*昔の子供は汚かった、とは聞きますが、実際手を焼いていたのだと思わされる文章。綺麗好きといわれる日本人も実はかなりの割合で洗っていなかったのだと思われます。「特に女子の頭髪~」は女子だから髪を綺麗にしてほしいと特に女子の髪は臭いのどちらともとれるのですが、両方の場合があったのではないかと推察します……。

6、 手拭きと鼻紙とはいつももっているようにさせて下さい。
*今でも割と注意されているように思いますが、ハンカチとティッシュではなく、手拭きと鼻紙という書き方には和の心があります。

7、 学用品は時々調べて足らぬものは買ってやって下さい。
*こういう注意があるということは買わない親がいたという事でしょう。もしくは、なくなっても言わない子供がいたのか、その両方か。

8、 手拭きや学用品等にはぜひ見やすいところに学年と姓名を書かせて下さい。
*なんでも最近は名前を他人に見られると危険ということで隠す傾向にあるらしいのですが、まだまだそんなことはないので、”ぜひ見やすいところに”書かせるようにと指導されています。もう一度言いますが、「書かせる」であって「親が書く」ではありません。学年と姓名を書くのも教育の一環だからでしょう。

9、 平常のいるときはぜひ持たせてください。また、あまり少なく持ってこないように注意してください。
*文房具が使っている途中でなくなるといったことはないようにとお達しです。あまり予備も学校も友達もなかったのではないでしょうか。借りるなんてもってのほかとも読めます。

10、 手足の爪は常に短く切らせてください。
*社会のマナーです。なにより衛生面では苦労していた時代ですから……。

11、 時々児童の成績物をおまわしいたしますから、よく他と見比べてご覧ください。
*個人的に衝撃的だった1文。なんと、成績は各家庭で回されていたのです。「うちの子はあそこさんところの子に比べて出来が……」なんて話題になったのでしょう。親にも見せるのを憚る通信簿がクラス中の親の目にも入るなんて……成績の振るわなかった子にしてみたら考えただけでも眩暈がしますね。

12、 父兄会や常番参観のときはぜひ御出で下さい。
*今でいう「保護者会」と「授業参観」になるのですが、いつの間にか使われなくなった言葉。父兄についてはなんとなく想像がつきますが、常番参観は時代が下ると分かりにくくなったからですかね?

13、 身体検査には十分ご注意あって標準身体票と御比べになれば自分の子供はなみの子供より体格がよいかわるいかがわかりますから、わるいときはご注意が大切です。
*これまた衝撃の1文。通信簿には身体検査の結果も載っており(単位は尺と貫!)、これが成績と一緒にクラスの他の子と比較されてしまうのです。隣組はなくとも、この時代の各家庭同士、そしてその中にいる子供たちのプレッシャーというのは相当なものだったと想像できます。

14、 児童の品行のよしあしは成るだけ学校へ御知らせください。特に受け持ちの先生へお会いになったときは何もかもうちあけてお話をしてください。お隠しになりますと却ってお子供のためになりませぬ。
*子供のあらゆる行動は学校に持ち込んで解決することになっていたようです。「お隠しになりますと却ってお子供のためになりませぬ」という言葉が刺さります。最近の学校はここまでコミットできませんから、かつての学校というのはいかに強かったのかということを思い知らされます。

15、 1月1日、紀元節、天長節、卒業証書授与式、運動会、学芸会等にはなるべく参列してください。
*卒業式・運動会・学芸会は今でもありますが、さらには正月と紀元節と天長節に参加する必要がありますから、当時の親は大変だったろうと思います。というか、子供がいる家庭は正月・紀元節・天長節は学校に行くものだったのですね。

16、 児童教育についてのご意見は何事によらず遠慮なくお申し出を願います。
*今、この1文を見るとモンスターペアレンツを思い起こしてしまいますが、当時は皇国を背後にした学校側の権力も絶大なので、言うことにも慎重にして、うっかりめったなことをいうとそれこそろくなことにはならなかったと思います。

17、 この連絡簿の通信欄をよくお使いになってお子供のしつけをなさることは教育上大切なことでありますから、子供のためを考えられますならば、どしどし通信を願いますわるいお知らせがあったとて操行評を下げるようなことは致しません。子供のわるいくせは学校と家庭と話し合ってなおすより外に道はありません。

*通信簿をつかってしつけることが大切、ということで、成績には影響しませんとはいいますが、学校とはとにかくかけあっていくようにと、そういうことでしょう。良いか悪いかは別として、学校がかなり家庭に入り込んでいくことによって真っ当な人間にしていくのだという自負心が伺えます。個人的には、外に道はない、ということもなかったように思いますが……。今の子供は特に学校に大きくコミットされませんが、かつてよりむしろずっと賢くお利口さんだったりしますからね……。


全体の言い回しが丁寧なようでなかなか鋭さを感じるのと、あと、割と漢字表記が少なめなのが印象的でしたかね。
教育問題が色々といわれる今日この頃。あえて、昔の教育を振り返ってみるのも一興ではないでしょうか。
色々な意味で、ちょっと刺激が強すぎるかもしれませんが……。




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テーマ:子育て・教育 - ジャンル:学校・教育

  1. 2016/10/03(月) 18:08:02|
  2. ちょっと硬めな勉強のお話
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