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The Wizard of Science

人類学のこと、歴史・考古学のこと、航空機のこと、特許のこと、海外の言語や書籍、などなど、たまには横道にそれたりする長文が多めなブログです。

軍事特許で日本が危険に?4[最終回]

長々とひっぱったこのシリーズも今回で最後です。


第一回:特許の基本理念

第二回:秘密特許と軍事特許

第三回:経済産業省の見解


*技術流出、新法で防止・経産省方針、軍事特許に非公開制度
 経済産業省は重要技術の流出を防止するため、包括策を盛り込んだ新法をつくる方向で検討に入った。
軍事への転用が可能な技術を含む特許情報を非公開とする「秘密特許制度」の導入が柱。
 特許公開の原則に例外を設け、外国の政府・企業やテロリストの閲覧を防ぐ。情報漏洩(ろうえい)に対する刑事罰強化も検討する。
 国の安全や産業競争力が損なわれる事態を未然に食い止めるのが狙いだ。

 学者や大手企業などで構成する「技術情報等の適正な管理のあり方に関する研究会」を省内に設置した。行政や企業、大学などが持つ情報の管理体制強化に向けた議論を進める。
 2009年の通常国会にも法案を提出したい考えだ。

 (日経新聞 2007年11月24日)


 同内容の記事は日経の他、産経新聞も出しており、日付が近いことから後日独自に調べて書いたものと思われます。


*軍事特許:非公開制度導入へ・欧米並みの秘密特許制度
 経済産業省は5日、軍事転用可能な民生技術の特許を非公開にする制度を導入する方針を固めた。
特許技術として公開された情報が他国に無断使用され、軍事的脅威が増大するのを防ぐことが目的。
平成21年の通常国会での立法化を目指す。

 日本の特許制度は、出願者以外が同様の技術を研究開発する重複を避けるため、出願から18カ月が経過した時点で特許内容の公開を義務づけている。特許庁の外郭団体が管理する
 インターネット上の特許電子図書館(IPDL)で、英訳文書とともに特許の詳細が公開されている。

 しかし、米国や英国などの欧米各国では、軍事転用可能な技術を非公開にしている。
 非公開になると、特許を保有する企業は、他者に特許を利用させてライセンス料を得ることができなくなる。このため、各国はそのデメリットを金銭で補償している。

 日本では軍事転用可能な技術もすべて公開されているため、北朝鮮などは特許電子図書館で公開された情報を無断で利用し、軍事用に活用しているとみられている。また、テロリストなどが利用することも懸念される。

 このため、経産省は欧米並みの秘密特許制度を導入し、特許庁が防衛省などと協議し、非公開にする特許を選定する方向で検討している。

 (産経新聞  2008年01月06日)


 さて、この「軍事特許」で検索をかけると色んなところがヒットし、大体どこも疑問を持たずに「今更新法を制定するなんて遅すぎる」という論調です。
 これ実はちょっと困ったことでして、特許と軍事の両面でそれなりに基礎知識があればこの論調ちょっと変だと気がつくのですが、意外とそうなっていない。

 そんなわけでこの件について順番になるべくわかりやすく書いていきたいと思います。

 前回までで特許の中には軍事技術に転用な物が数多くあり、また、それを民間と分ける事が非常に難しく、法制度の前に適切なガイドラインの設定が必要であることを書きました。
 つまり、記事における「法制度の整備」は誤報であり、実際はその法制度を行うか否かどうかという議論と、実行にはきちんとした情報流出に関する企業側の意識改革と社内対策がまず行われることが肝心ということになります。

 さて、なぜそのような民間と分ける事が難しい…ことになっているのか。
 今回、書いていくのはその日本の産業と軍事の両面に関する歴史的背景です。


・日本の戦後と企業
 誰もが知っているとおり、第二次大戦で日本は敗北しました。
 戦後における企業の始まりは、この第二次大戦の敗北の影響が非常に大きく係わってきます。

 まず、軍事面では陸海軍は解体され、軍備は取り上げられることになりました。
 当然、今まで軍事兵器を作っていた企業は生産を全て打ち切られることになります。
 また、財閥の解体によって大企業はその力を抑えられることになってしまい、まさに日本の軍需産業というのはこの時点で一度消滅したに等しい状況に陥りました。
 細かいことを言えば、実際は生き残っている技術者もおり、戦後の平和的な経済発展への貢献も少なくないのですが、とにかく軍需の面ではほぼ壊滅したといって過言ではないでしょう。

 さて、これともう一つ見ていかなければならないのは植民地における企業です。
 敗戦前の日本は海外に植民地を持っており、ここにも日本の企業はたくさんありました。
 ところが、敗戦によって植民地は全て失うことになりました。

 さて、この植民地に合った企業はどうしたのか?
 実は全て日本へ帰ってきました。

 軍需の壊滅と植民地の企業の国内への帰還。
 今回抑えるポイントはこの2つです。


・淘汰されなかった企業
 日本の持っていた海外の植民地というのは非常に広範囲かつ大規模で、そこにある企業の数も非常に多いものでしたが、それが一斉に国内へと戻ってくる。
 当然ですが、日本国内には同業種の企業が既に犇いており、それらと競合することになります。

 ところが…ここが日本の面白いところなのですが、これらの企業はほとんど淘汰されること無く元から日本にあった企業と共存する道を歩みます。
 もちろん、時代の変転や社会情勢によって潰れる企業は少なからず出てきましたが、それでも日本国内には敗戦前の倍以上の企業を抱えながらもこれらを維持することに成功するのです。
 これは世界的にも類を見ないことで、同じ敗戦国であるイタリア・ドイツはもちろん、戦勝国であるイギリスやアメリカでさえ戦後の処理に伴って大量の受注が減った国内企業は統合・減少の道を歩んでいるのです。

 なぜ、そんなことが日本だけに起きたのか?それも、条件としては他国と比して悪かった…はずなのに。
 詳しいことはいまいちわからないのですが、いわゆる戦後の「助け合い」の精神も関係しているのかもしれません。
 とにかく、日本の企業というのは極端なお互いの淘汰というのを避け、国内需要において絶妙な住み分けを行ったわけです。
 おかげでその後の経済発展においても非常に大きな要因となった…と言われています。

・企業競争の結果がもたらした物
 なぜ、この方針が強力な経済発展の要因になったかといえば、企業の数が多い分、激しい競争が起こるからです。
 意図的な潰しあいはしないとはいえ顧客の確保にそれぞれの企業は躍起です。
 ですので、商品は次々と改良され、どこよりも良い物をという精神が生まれます。
 元が職人気質だったのもあるかもしれませんが、国内状況において企業が潰し合わないのに、商品における競争を激化させるというのは非常に恵まれた環境にあったといえます。
 普通、世界では儲けを考えたらどこかで工作するものなのですが、これが日本において大々的になるのは大分後になってからの話。
 
 この結果、車や家電メーカーというジャンルそれぞれにおいても、一流企業と呼ばれるものが4~5以上立ち並ぶという異常事態になりました。
 海外で各国の一流メーカーといえば、例えばアメリカでは車の会社ではGM、フォード、クライスラーのビッグスリー。少ないといえば韓国は現代の一社ですね。
 片や日本は、三菱・トヨタ・日産・川崎・本田…5つ以上は特定分野が好きな人ならわけないですね。


・激しい競争と特許
 こういう中で日本の企業が出す特許は、相手の会社を出し抜こうという性格のものではありませんでした。
 この連載の最初に書いた特許のいい意味での使われ方が多く、逆にアメリカ等で見られるような発明家や企業同士の妨害といった方向にはそこまでいかなかったのです。(もちろん0ではありませんが)

 それは日本で起こされる特許訴訟の数からも分かり、近年においても日本で出願される特許の数に対して訴訟が起こるのは大体800件に1件の割合ですがが、アメリカは40件に1件の割合で起きています。(ちなみに中国では10件に1件で訴訟大国といわれる米国も真っ青な数字であったりする。)
 もともと性格的に慎重だとか、穏やかと言われる日本人ですが、この分野においてもその一端が垣間見れたりもするわけです。

 まぁ、性格かどうかはさておいても、日本国内における事情がそういうわけだったのですから、特許制度もそれを反映して整備されてきましたし、他国と比して穏やかだったのも戦後の事情が係わっており、特許が悪用される可能性があるからといって、おいそれとすべてを変えるわけには行かないのです。(もちろん少しづつ変わってきてはいますが)
 
 そもそも、こういった戦後の状況と、それにあわせた制度が経済発展を後押しした事実は否めず、特に経済発展が停滞している日本は嘗てどのように発展していったかをもう一度振り返って制度を見直すべきなんではないかと私は思います。


・振り返って軍需
 さて、一度は完全に失われたに等しい軍需でしたが、これも後ほど主にアメリカの後押しがあって復活してきました。
 かつて軍需を担った三菱や川崎といった大企業がこれらに参加し、現在も兵器の製造に当たっています。

 ただし、一度失われたものを取り戻すのは非常に困難で、特に企業は常に利益を上げなければいけない手前、いくら政府が望んでもその事業が継続するか分からないのにすぐに生産内容を切り替えるというわけにはいきません。

 そんなわけですので、軍需に当たる企業は通常は民間向けの製品を作っているものを上手く転用することで対応しています。
 特に中小企業に非常に器用な職人を抱える日本はこの移行をなんとかやりとげることに成功したようです。 

 これが日本における軍需と民需の境を分ける隔たりが薄い大きなポイントになります。
 日本の軍事兵器製造は民間で培ったものの転用が大きく、また逆に軍事兵器を製造することで得られた知識や技術は民間製造にも役に立ったりします。

 ここでもお互いにいらぬ潰しあいは行わない持ちつ持たれつな精神が生きているといえます。
 

・まとめ
 確かに軍事に転用可能な技術が流出するのは恐ろしいことです。
 しかし、日本のこういった数々の事情を鑑みれば、直ちに法整備と行かないことも理解できます。
 経済産業省の対応がベストであるとは言いませんが、現時点における対応としてはあながち間違ってはいません。

 日本の経済・軍事両面における発展のためには、お互いを妨げない、要らぬ対立を生まない日本らしい方針を貫いてもいいのではないかと思います。


 そんなわけで、最後少しつまり気味になりましたが、これで連載の終わりにします。





大〆


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テーマ:軍事・平和 - ジャンル:政治・経済

  1. 2010/10/10(日) 19:23:54|
  2. 「軍事特許で日本が危険に?」
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  4. | コメント:0
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