The Wizard of Science

人類学のこと、歴史・考古学のこと、航空機のこと、特許のこと、海外の言語や書籍、などなど、たまには横道にそれたりする長文が多めなブログです。

実は猿は話せる?口と喉の構造解析からわかる発声能力。

今年も随分と終わりに近づいてきました。今回の記事が今年の最後となると思います。

そんな終わりになって入ってきたニュースに「猿は実は話せるのに十分な構造を持っているんじゃないか」というなかなか面白いものがあったのでここでせっかくなので書いていきたいと思います。

http://www.sciencemag.org/news/2016/12/why-monkeys-can-t-talk-and-what-they-would-sound-if-they-could

さて、一般常識としてこの世界には話すことができる猿というのは存在しません。あくまでフィクションの中での存在です。
ですが、知能的にはある程度言語を理解することが知られています。例えば、チンパンジーが与えられたおもちゃを指示されたとおりに並べたり、また手話をある程度行えるということが知られています。これを行うには高度な言語理解力が必要だということから、彼らは教育によって言語を会得することができる素質が備わっているといえます。
ですが、そのチンパンジーが人間と”声を出して会話”することはできません。これに対するこれまでの学者の回答としては「猿は人間と違って二足歩行を常に行うわけではなく、その結果、口と喉の構造が人と大きく違っているため、発声できる音の種類に限界があり、人のようには会話することができない」というものでした。
これはそれなりに説明として説得力があり、原始の人類達がいつごろから私たちと同じように話せるかの指標として口の骨格や喉の構造を比較することで判明するのではないか、という研究が行われてきていました。

ですが、今回発表されたこの論文によりますと、猿の口や喉の構造においてそういった制約があるという証拠はない、ということなのです。
http://advances.sciencemag.org/content/2/12/e1600723.full

実はダーウィンが「猿が喋れない理由」を聞かれた際に「脳の問題」と答えたことがあるのですが、それは人間よりも脳容量の少ないチンパンジーでも言語を理解することがわかったあたりから懐疑的に見られていました。
それが、逆に今回の研究によって「やっぱり脳の問題なんじゃないか」と逆転する事態となっています。
こういう逆転に次ぐ逆転があるから、人類学の研究を追いかけるというのはなかなかやめられないものです。

もし、「脳の問題」であるということが事実であるならば、この研究を率いたフィッチ博士の言葉をそのまま引用すると原始人類達がいつ話し始めたのかを骨格から判断しようとすることは「全くの無駄だった」ということになります。
私が勉強始めたころはこの「口と喉の構造問題」という話はかなり広い共通認識をもって語られていたように思うので、それが全面的に書き換わるとなると実に面白いことです。

http://www.msn.com/ja-jp/news/opinion/%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%81%8C%E8%A8%80%E8%91%89%E3%82%92%E8%A9%B1%E3%81%9B%E3%81%AA%E3%81%84%E7%90%86%E7%94%B1%E3%81%AF%E3%80%81%E5%8F%A3%E3%82%84%E3%81%AE%E3%81%A9%E3%81%AE%E3%81%9B%E3%81%84%EF%BC%9F-%E3%81%9D%E3%82%8C%E3%81%A8%E3%82%82%E8%84%B3%EF%BC%9F/ar-BBxo3qb

これを発見したやり方としてはアカゲザルの口と喉をX線で通して撮影した写真を様々な条件(声を出す、食べる、表情を変える等)を元にどれだけ動くかを解析してモデル化。そのモデルに実際の言葉をしゃべらせてみる、ということまでやったそうです。この記事を書いている時点では未確認ですが、上記の日本語記事によればウィーン大学のサイトには「Will you marry me(僕と結婚する?)」と猿のモデルが喋る声が聞けるそうです。興味がある人は探してみてはいかがでしょうか。

さて、この言語能力の話としてもう一つ過去に大きな発見として報じられたFOXP2遺伝子(英語ではフォックスピーツージーンと呼んでました)というものがあります。これは先天的な言語障害者には欠けていることがわかった遺伝子で、この存在がネアンデルタール人といった大昔の人類にも確認されたことからその言語能力を図る指標として注目されました。
ですが、上記のように口や喉の構造に言語発声能力が依存していると考えられていると、いくらFOXP2遺伝子があっても構造的に発声できないのではどうしようもないのではないか?というのが概ね主流の考え方でした。
これもフィッチ博士の言葉を借りれば「もっとFOXP2に関する研究を進めた方が有意義だ」ということになります。

あくまで予想でしかありませんが、言語発声に関する神経を発達させると考えられる遺伝子FOXP2を探れば、もしかするとこれまで考えられていたよりもかなり古い時代から(それこそアウストラロピテカス種といったこれまで言語能力がないと考えられていた種も)話すことができていたという発見があるかもしれません。

特に言語能力の発達は集団で細かい作業を行う際には必須だと考えられるため、石器の作成と発達に大いに貢献していると考えられます。最初期の石器であるオルドワン石器は初期の人類だけでなく、アウストラロピテカスも作成者として考えられており、この研究が進むことで言語だけでなく、人類の技術進化の歴史にもう一つ重要な光が点ることが考えられるのです。

とはいえ、まだまだこのX線とモデルを用いた研究方法にも反論なりある可能性があるため、全てを鵜呑みにして結論を急ぐのは尚早なのですが、新しいブレークスルーの可能性を秘めている以上、これからも注目していきたいと思っています。






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テーマ:進化学 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2016/12/22(木) 18:18:04|
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